勝手に改葬

来世で立派なメジャーリーガーストライカーになるために。

せっかちを背負いせっかちに殺される。

我が家系代々ある化け物を受け継ぎ

私は日々、体内に宿る奴を押さえつけるのに必死こいている。

その名も「せっかち」

この怪物を抱えていない方々に私の苦痛を分かって頂けたらと思う。

 

 

奴はエレベーターではもれなく暴れだす。

閉まるボタンを連打するのだ。

押したところで縮まるのはせいぜい2、3秒、大して変わりはしない。

だが待っていられないのだ。

さらには扉が閉まりだしても押し続ける。

まるで初めてボタンに触れてはしゃぐ幼稚園児のように。

ボタンを押しても意味がない事など奴には理解できないのだ。

少しでも可能性があるなら諦めるなんてあり得ない、と奴は言う(主人公かっ)

 

一人ならば良いが、誰かが同乗していようものなら奇人を見るような目を向けられる。

私の意志ではない!と視線で訴えた所で目を反らされるだけだ。

 

 

食事の時はさらに辛い

気付くとかきこんで食べている。

食べ盛りの柔道部か、と思うほどに掻き込む。

苦しいったらありゃしない。

誰かと外食に

行ったときは尚の事辛い。

そもそも掻き込んでいることを不思議がられるし、早く食べ終わってしまうもんだから相手がまだ食べているのにそわそわし始める。

相手からしたら

(コイツはそんなに俺といたくないのか?)

と思うだろう。

申し訳ない。今まで食を共にした人々にこの場を借りて謝罪をさせてもらおう。

 

 

しかし、これより遥かに辛いことがある。

それは喫茶店でくつろげないことだ。

茶店でコーヒーと文庫本というセットで休日にのんびりするというのが子供の頃からの憧れだった。

落ち着いて品のある大人。

しかし、店主のコーヒーを淹れる音と、

リズムをぎり拾えるくらいの揺ったりとした店内音楽だけの空間で奴が暴れないわけがない。

コーヒーを頼むがほとんどイッキ飲みに近い形で飲み干してしまう。

通常のコーヒーを何故か本場イタリアのエスプレッソスタイルで。

 

そんでその後はそわそわするだけだ。

本の内容も全く入ってこない。

閉じたり開いたりパラパラめくったり。

 

憧れたニールキャフリーやらシャアやら

はたまた折木奉太郎のように落ち着く事は不可能らしい。

 

結局耐えられなくなり5分で店を出ることになる。

コーヒー一杯400円で5分である。

衝撃のコスパ

店の回転率に貢献した事を誇る他ない。

 

どうにも逃れられない抑えられない。

 

一生奴と付き合うことを覚悟しなければならないらしい。

 

日本においてフルーツバスケットの相馬家の呪いを理解できるのはせっかち憑きの人間だけだと思う。

いつか奴と上手く付き合い、大人の落ち着きを身につけ喫茶店で賢ぶれる時が来ることを夢見る、

が、

80すぎてもあたふたしている祖母や50の母を見るに無理だろうと推察される。